オーストラリアでは違法たばこの流通が急拡大し、連邦政府の財政と公衆衛生政策に深刻な影響を与えています。業界推計では、国内で消費される全たばこの64%、総ニコチン消費の82%が違法品に占められており、違法市場は2025年9月時点で約100億豪ドルの規模に達したとされています。これに伴い、たばこ物品税収は2020年の160億豪ドル超から2025年には74億豪ドルへと大幅に落ち込み、さらなる減少も見込まれています。
高税率が招く需要のシフト
経済学者アーサー・ラッファー氏は、過度に高いたばこ税率が違法市場を活性化させ、結果として税収を縮小させる典型例だと指摘します。先月は通常の物価指数連動に加え追加で5%の増税が行われ、合法的なたばこ(20本入り)の平均価格は40豪ドル超、1本あたりの税額は1.49豪ドルに達しました。価格が跳ね上がる一方で、安価な違法品への置き換えが進み、合法市場が細る悪循環が続いています。
税収と公衆衛生のダブルパンチ
違法流通の拡大は、税収減に直結するだけでなく、公衆衛生上のリスクも高めます。違法品は製造や成分の管理が及ばず、健康被害の不確実性が増大。さらに、価格引き上げによる喫煙抑制策の効果が薄れ、禁煙支援や医療費抑制という政策目的の達成を難しくします。
求められる包括的アプローチ
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事態の打開には、単なる増税・減税の二者択一ではなく、価格政策・取締り・社会対策を統合した再設計が不可欠です。具体的には、(1)税率の適正化と違法品との価格差縮小、(2)国境・国内での取締り体制強化と流通網の遮断、(3)売買への厳罰化と再犯抑止、(4)禁煙支援・代替ニコチン製品のリスク低減政策など、需要と供給の双方に同時に働きかける設計が求められます。
今後の見通し
違法たばこが市場の多数派を占める異常事態は、税収・医療費・治安の三領域で「コストの外部化」を招きます。政府と規制当局は、価格弾力性を正確に見積もりつつ、供給網の摘発・資金洗浄対策を強化し、合法市場の信頼回復を急ぐ必要があります。政策の舵取りを誤れば、税率引き上げ→違法化→税収減という負のスパイラルが長期固定化するリスクがあります。


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