欧州最大のソフトウェア企業SAPの株価が、2025年10月23日の取引序盤に下落しました。背景には、同社が公表したクラウド事業の通期見通しが市場の期待に届かなかったことがあります。SAPは2025年のクラウド売上高を216〜219億ユーロのレンジとし、実質的にレンジの下限付近になると示唆。株価は一時上昇後に反転し、序盤で約2%安まで軟化しました。
クラウド見通し:慎重なレンジの意味
クラウド移行を最優先課題とするSAPにとって、ガイダンスは投資家心理を左右する試金石です。今回のレンジ(€21.6–21.9bn)は成長の継続自体は示すものの、投資家が期待した“上振れシナリオ”を後押しするには力不足との受け止めが広がりました。為替、マクロ環境、導入案件の意思決定長期化などが、ボラティリティを高める要因とみられます。
株式市場の反応:サプライズ不在、方向感探り
欧州市場では、発表直後に買い戻しが入った後、失望売りと米国預託証券(ADR)の弱含みが重なり、上げ幅を消す“行って来い”の展開に。あるトレーダーは「Oracleのクラウド・インフラのような強い追い風は見られず、同時に極端に弱い内容でもない」とコメント。ポジティブ・ネガティブいずれにも振れ切らない、慎重さが前面に出た反応となりました。
競争環境:ERP主戦場とAI統合の行方
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ERPの牙城を持つSAPは、サブスクリプション化の進展とともに、AIをコア業務プロセスへどう統合し差別化するかが成長のカギです。競合のOracleやSalesforceはAI/データ基盤を前面に打ち出し、意思決定支援や自動化の価値を提案。SAPも既存顧客のクラウド移行を下支えしつつ、AIを織り込んだ業務変革のロイ(ROI)を明確化できるかが、次の評価軸になります。
投資家が見るべきチェックポイント
- 受注・残高の質:RPO(残存履行義務)やクラウド粗利の改善ペース。
- AI機能の実装度:基幹業務での具体ユースケースと単価上昇への寄与。
- マクロの逆風:IT投資抑制や為替の影響、導入サイクルの長期化。
まとめ
今回の見通しは“失望一本調子”ではないものの、明確な上振れ要因にも欠け、市場は様子見からの選別色を強めています。SAPが次の四半期以降、AI起点の付加価値提案と移行案件の着実な積み上げを示せるか――その実行力が、株価の再評価に直結する局面です。
参考リンク:
Channel NewsAsia:SAP shares turn negative on new cloud business outlook
Reuters:SAP shares slip as company forecasts lower end of cloud revenue range


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