欧州連合(EU)の人権担当高官カヤ・オロングレン氏は、ミャンマーの次期選挙について「自由でも公正でもない」と強く批判し、東南アジア諸国連合(ASEAN)に対して「現状の方針を変え、真の変化を推進すべきだ」と異例の呼びかけを行いました。この発言は、ミャンマー軍事政権が12月に総選挙を実施すると発表している重要な局面で、国際社会の視線がASEANの外交的リーダーシップに集中していることを示しています。
EUの立場:監視団不派遣と選挙の正統性否定
オロングレン氏は、2025年10月17日にマレーシアのクアラルンプールで行われたAFPとのインタビューで、EUが12月のミャンマー選挙に監視団を派遣しない方針を明らかにしました。その理由として、選挙の正統性に深刻な疑問があると述べ、「国際的な民主的基準を満たしていない」と断言しました。
EUはこれまでもミャンマー軍政に対し制裁措置を維持しており、今回の決定は軍政の「見せかけの選挙」を容認しないという明確なメッセージとみられます。
「軍事支配の継続」と批判されるミャンマー選挙
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ミャンマーでは、2021年の軍事クーデター以降、国軍トップのミン・アウン・ライン司令官が政権を掌握し、民主派勢力との間で内戦状態が続いています。軍政は、2025年12月28日に総選挙を実施すると発表し、「国内の和解と安定に向けた一歩」と位置付けています。
しかし、国際社会はこの選挙を厳しく見ています。国連の専門家やアムネスティ・インターナショナルなどの国際人権団体は、この選挙を「軍事支配の継続を正当化するための策略」として非難。実際に、一部地域では有権者の自由な投票が保証されておらず、反軍政派候補者も排除されていることが報告されています。
ASEANへの要請:「より強い外交的行動を」
オロングレン氏は、ミャンマーの危機解決には地域的な協調が不可欠であるとし、特にASEANの役割を強調しました。
「ASEAN諸国を含むすべての近隣国が、ミャンマーにおける政治的変化を積極的に支援し、現政権への圧力を強化すべきだ」
この発言は、ASEANが掲げる「不干渉の原則」を超え、より踏み込んだ対応を求める内容です。ASEANの特使による対話努力はこれまで成果を上げられず、国際社会からは「より明確な行動」を求める声が高まっています。
首脳会議前のタイミング:方針転換はあるのか
EU高官の発言は、ASEANが今月予定している首脳会議を目前にした重要なタイミングで発表されました。ASEANは、ミャンマー危機への対応として「五項目のコンセンサス(暴力停止・対話促進・人道支援など)」を掲げていますが、軍政の非協力姿勢により進展は停滞しています。
今後の焦点は、ASEANが首脳会議でどのような姿勢を示すかにあります。穏健な外交路線から一歩踏み込み、制裁や政治的圧力を含む「真の変化」を促す決断を下すのか。ミャンマーにおける民主主義の回復は、地域の安定と国際的信頼の双方に関わる課題です。


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