モロッコが2030年ワールドカップの共同開催に向けて、大規模なサッカー競技場や関連インフラの建設を進める中、国内では若者主導の抗議運動が全国に拡大しています。先週土曜日以降、毎夜各都市で街頭に出る動きが続き、参加者らはこうした巨額投資を「国民の生活に直結しない無駄遣い」と批判しています。
抗議の舞台となっているのは、特に医療や教育といった基礎公共サービスの弱体化です。参加者らは「ワールドカップより健康だ」「スタジアムではなく病院を」といったスローガンを掲げ、国の優先順位の見直しを強く訴えています。
デジタル世代が主導する抗議
若者たちが主導するこの運動は、匿名性を保った集団「Gen Z 212」(モロッコの国際電話番号 +212 に由来)によるもので、Discord、TikTok、Instagram などを通じてデモを調整しています。こうした“デジタル世代”によるアクションは、従来の政治運動とは異なる柔軟性と拡散力を持っています。
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抗議に関わる若者の一人、25歳のハジャル・ベルハッサン(コミュニケーションマネージャー)は次のように語ります。「私は自分の国がより良くなることを期待している。国を離れたくはないし、自分が選んだこの国に誇りを持ちたい」。彼女の言葉は、多くの若者が感じている“残りたいけれど変えたい”という思いを象徴しています。
ネパール運動との関連性
このモロッコの動きには、ネパールなどで最近起きた若者デモの影響も指摘されています。ネパールでは、若者たちが腐敗や社会不公平に抗議して街頭を占拠した事例が注目され、モロッコの若者もそれと同様のスピリットを持って行動していると見られています。
抗議活動は9月27日に10都市で始まり、その後も規模を拡大。デモは国家プロジェクトと市民ニーズとのギャップを浮き彫りにしました。一方で、運動は暴力的ではなく、全国の若者が声を合わせる象徴的な動きへと発展しつつあります。
モロッコの抱える課題
今回の抗議を通じて、モロッコ社会が抱える根本的な課題が鮮明になっています。特に三つの視点から論点を整理できます。
1. 経済格差と公共サービスの後退
サッカー施設建設に巨額の予算が注がれる一方で、地方や低所得層地域では病院や学校が老朽化し、医師や看護師の不足、設備の非効率が常態化しています。世界保健機関(WHO)のデータによれば、モロッコ全体で10,000人あたりの医療従事者数は平均 7.7 人となっており、地域によってはさらに低い水準です。
2. 若者の政治参加とデジタル活用
「Gen Z 212」は、従来のリーダーや政党に依存せず、インターネットを通じて即時性のある連絡と拡散を実現しています。政府にとって従来型の抑制手段が通用しづらく、若者の声はより強い影響力を持ち始めています。
3. 国家プロジェクトと国民の乖離
政府が推し進める国際的プロジェクト(ワールドカップ・アフリカネーションズ等)と、国民の日常的ニーズ(医療・教育・雇用など)の優先度に大きな隔たりがあることが、今回の抗議の根底にあります。スタジアム建設のために地域住民の立ち退きや補償問題も報じられ、反発が広がっています。
今後の展望と課題
現在のところ、モロッコ政府がデモ側の要求にどのように応じるかは明確でありません。ただし、10月1日には南部の小都市ルクリア(Leqliaa)で警察が発砲し、デモ参加者3人が死亡したとの報道もあります。これはこの運動初の死者とされ、緊張をさらに高めています。
今後注視すべきは、政府がどれだけ国民との対話を重視し、予算配分を見直すかという点です。また、この運動がモロッコ国内の政治構造にどのような長期的影響を及ぼすかも重要な焦点です。若者たちのムーブメントが、単なる抗議を超えて制度変革を迫る波となるかどうか、その行方はまだ見えません。
出典:BBC News「We need hospitals not football stadiums, say young Moroccan protesters」


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